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【初心者向け】医療機器開発の基礎知識—エンジニアが知っておくべき7つのポイント

【初心者向け】医療機器開発の基礎知識—エンジニアが知っておくべき7つのポイント

「医療機器」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか?
近未来的なロボット手術、AIが心臓の声を聞くスマートウォッチ、あるいは病院の手術室で光る機械の数々。
実際、医療機器の世界は想像以上に多種多様で、テクノロジーの進歩が命に直結するスリリングな領域です。

私自身、大学でシステム科学を学んでいた頃は、医療とはそれほど縁がありませんでした。
でも祖父が血糖測定器を使う姿を見て、「これ、もっと使いやすくならないの?」と感じたのがすべての始まり。
その後スタンフォードでバイオデザインを学び、日本のスタートアップで開発に携わり、今ではフリーランスの医療機器開発コンサルとして活動しています。
この分野は奥が深く、そして本当にヤバいぐらい面白いんです。

この記事では、医療機器開発に初めて触れるエンジニアさんが「まず知っておくと良いな」と思う7つのポイントをシンプルにまとめました。
専門用語はなるべくかみ砕きながら、「なんでそんなプロセスが必要なの?」という背景にも触れていきます。
読み終わったとき、医療機器開発へのハードルが少し下がって、「自分にもできそう!」と感じてもらえたら嬉しいです。

目次

医療機器開発の基本フレームワーク

「ニーズドリブン」vs「テクノロジードリブン」—医療機器開発の二つのアプローチ

医療機器開発には大きく分けて「ニーズドリブン(Needs-Driven)」と「テクノロジードリブン(Technology-Driven)」という2種類の開発アプローチがあります。
スタンフォードのバイオデザインプログラムで叩き込まれたのがまさに「ニーズドリブン」の考え方でした。

「ニーズを徹底的に掘り下げることで、真に価値あるソリューションが生まれる」

一見遠回りに思われるかもしれませんが、医療現場のリアルな課題を掴むことで、技術と現場をつなぐ“本物の答え”に近づくんですよね。
一方、優れた技術(たとえば画期的なセンサーやAIアルゴリズム)があって、それを医療応用してみたいという場合には「テクノロジードリブン」のアプローチも有効です。
ただし、先に技術ありきだと、「そもそもそれを使ってくれる人はいるの?」という問題が必ずつきまとうので要注意。

私の経験上、どちらが優れているかというよりも、「どちらのアプローチを軸にするか」を明確にして開発を進めるのが大切だと感じています。

ユーザー中心設計(UCD)の重要性—患者と医療者の声を聞く

医療機器開発では「ユーザー=医療者(医師・看護師)+患者さん」という形が多くなります。
ここで言う“ユーザー”は、デバイスを使う人全員を含むと考えてください。
患者さんにとっては「使いやすいこと、痛くないこと」が最重要かもしれませんが、医師にとっては「臨床データを正確に取れること」が最優先だったりしますよね。
こうした異なる視点を同時に満たすには、ユーザーへの徹底的なヒアリングとプロトタイプの反復的な検証が欠かせません。

実際、使い勝手の良し悪しで臨床現場での導入率が激変するのはよくある話。
「これめっちゃ性能いいのに、データを取り出すのが面倒で使われない…」なんて残念な結末も少なくないんです。
だからこそUCDを意識して、患者と医療スタッフ双方の声に耳を傾けることが重要なんです。

医療機器のクラス分類とリスク評価—あなたの製品はどのカテゴリーに?

医療機器にはリスクレベルに応じたクラス分類が存在します。
以下のように、日本の場合はクラスIからクラスIVまでの区分があり、リスクが上がるほど規制要件も厳しくなっていきます。

分類特徴
クラスIリスクが低い医療機器体温計、医療用手袋など
クラスII中程度のリスクがある医療機器ホルター心電計、輸液ポンプなど
クラスIII高リスク医療機器(生命維持・重篤な疾患に関連)人工呼吸器、人工骨など
クラスIV最もリスクが高い医療機器(生命維持に必須など)人工心肺装置、植込み型除細動器など

このクラス分けにより、求められる安全性データや申請プロセスが変わってきます。
例えばクラスIなら比較的スムーズに市場投入できますが、クラスIIIやIVになるとかなり厳格な審査を通過しなければなりません。
あなたが開発しようとしている製品はどのカテゴリーに当てはまりそうか、まずは確認してみると良いでしょう。

規制と承認プロセスの理解—初心者が最も躓くポイント

医療機器の法規制フレームワーク—日本と海外の違い

エンジニアにとって、規制や法律はちょっととっつきにくいですよね。
ですが、医療機器開発ではこの「法規制の理解」が成功のカギと言っても過言ではありません。
日本では医薬品医療機器等法(いわゆる薬機法)を中心に、厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)が審査を担当。
海外ではFDA(米国)、EMA(欧州連合)といった機関がそれぞれの基準を持っています。

驚くほど細かい要件が指定されているので、「最初にどの市場で販売したいか」で準備する資料や手続きが変わることもしばしば。
例えばアメリカ市場を狙うなら、FDAのクラス分類に合わせた申請資料が必要になります。
「まずは日本国内だけで売りたいのか、いきなり世界で売りたいのか?」を考えてから動くと、後々の手戻りを減らせるでしょう。

薬事申請の基礎—エンジニアが知っておくべき書類と手続き

医療機器を販売するには、薬事承認または認証と呼ばれるプロセスを経る必要があります。
エンジニアが特に押さえておきたいのは、「どんな実験データや臨床データが要求されるのか」という点。
製品の安全性や有効性を証明するためには、動物実験や臨床試験の結果をまとめた報告書が求められます。
デジタルヘルス系の機器でも、ログデータやアルゴリズムの精度検証など、意外と手厚いエビデンスが必要になるんです。

また、申請書には装置の構造説明図やリスクアセスメント、製造工程のプロセスなど、かなり多方面にわたる情報が盛り込まれます。
エンジニアと薬事担当者が連携して、必要なデータを抜け漏れなく準備するのが理想的です。
「ここを初めてやるときは、何をどこまで書けばいいの?」という疑問が出るかもしれませんが、PMDAやFDAのガイドラインを読むのが一番の近道です。

QMS(品質マネジメントシステム)の基本—エンジニアの視点から

QMSはQuality Management Systemの略で、医療機器の品質を一貫して保つための枠組みです。
簡単に言うと、「どのように開発して、どのように製造して、どのように管理しているか」を文書化し、ルール化するシステムですね。
ソフトウェアエンジニアで言うところのバージョン管理やテストプロセスが、さらに厳格になったイメージかもしれません。

「エンジニアがここまでやる必要あるの?」と思うかもしれませんが、実際のプロジェクトでは、どんなコード変更をいつ誰がやったのか、テストはどうやって実施したのかといった細かい証跡が求められます。
最初は手間に感じるかもしれませんが、QMSがしっかり機能している会社ほど、後で大きなミスを防ぎやすいのも事実。
初心者のうちから少しでも意識しておくと、医療機器開発の現場でスムーズに動けるはずです。

臨床ニーズの発見と評価—スタンフォード流アプローチ

医療現場での観察とインタビュー—真のニーズを見つける技術

スタンフォードのバイオデザインでは、まず病院などの臨床現場を“観察”し、医療者や患者さんに徹底的に“インタビュー”を行います。
たとえば手術室のどこかに小さな不便があるかもしれないし、患者さんのリハビリ器具に改良の余地があるかもしれない。
こうした現場の“生の声”を拾うことで、現実的な課題を把握し、解決策を導き出すんです。

このとき大切なのは、「すでに自分の頭の中にある技術やアイデアを無理に当てはめない」こと。
できるだけフラットな視点で観察し、相手の話に耳を傾けると、本当の課題が浮き彫りになってくるものです。
「あなたはどうしてこの作業に時間がかかるのですか?」「何が一番不便ですか?」といった素朴な質問を重ねると、想像以上に面白い答えが返ってきますよ。

ニーズステートメントの作成—問題を正確に定義する方法

インタビューや観察で集めた情報をもとに、「ニーズステートメント」という問題定義を作るのがスタンフォード流。
たとえば「週に3回透析を受ける患者が、通院負担を軽減できるようにする」といった形で、具体的な状況と望むゴールを一文でまとめます。

このときポイントとなるのが、「技術的解決策を入れないこと」。
「超小型のウェアラブル透析デバイスを作る」といった解決策まで書いてしまうと、そこに思考が固定されてしまいます。
まずは“問題”と“理想”をはっきりさせることが、後のブレインストーミングで自由な発想をするための大事なステップです。

ニーズの優先順位付け—市場性、技術的実現可能性、臨床的重要性のバランス

ニーズを大量に洗い出したら、それを全部開発するわけにはいきません。
そこで登場するのが優先順位付け。
大雑把には「市場性」「技術的に実現できるか」「臨床的に本当に重要か」の3軸で評価するとわかりやすいです。

  • 市場性:ユーザー数は多いか?市場規模や保険償還制度はどうなっているか?
  • 技術的実現可能性:今の技術やコストで実際に作れるのか?試作品は作れそうか?
  • 臨床的重要性:患者さんの生活や治療成績を大きく変えるインパクトがあるか?

この3つをバランス良くスコア化してみると、「どのニーズがもっとも取り組む価値が高いのか」が見えてきます。
判断に迷ったら医療者や投資家の意見も取り入れると、より客観的に絞り込めるでしょう。

医療機器のプロトタイピングと検証

医療機器における「Fail Fast, Fail Cheap」の実践方法

シリコンバレーのスタートアップ文化でよく言われる「Fail Fast, Fail Cheap」は、医療機器でも非常に重要です。
ただし、医療分野では患者の安全性が最優先なので、テック系のように“何でもすぐリリースして試す”というわけにはいきません。
そこで重要になるのが、安全に配慮した小規模な実験や検証プロセスの設計。
CADや3Dプリンタを活用しながら、試作品を小まめに改善し、失敗から素早く学ぶことが成功への近道です。

私がスタートアップで共同創業者を務めていたときも、紙や粘土モデルを使ったり、オープンソースハードウェアを試したり、ありとあらゆる手段でプロトタイプを作りました。
その段階で「これ思ったほど効果ないぞ…」とわかれば、開発コストや時間を無駄にせず、新しいアイデアにシフトできます。
このフットワークの軽さが、医療機器開発の世界でも競争力になるんです。

臨床評価と検証の基本ステップ—エビデンスの構築

プロトタイプがある程度形になったら、次は臨床現場で使えるかどうかを実際に検証していきます。
ここではエビデンスの構築が大切。
医療デバイスの場合、「本当に正確に計測できるのか」「医師が臨床判断に使っても問題ないデータ品質なのか」を示すデータが必要です。

  • ベンチテスト:実験室レベルでの性能評価。温度耐久や耐衝撃テストなどを行う。
  • 動物実験や実験台(Bench Model)でのテスト:人に試す前に安全性や有効性を確認。
  • 臨床試験(Clinical Trial):倫理委員会の承認を得て、実際の患者に使用しデータを収集。

こうした段階的な検証を経て、機器の性能と安全性をエビデンスとして積み上げます。
それが後の薬事申請を通す際の大きな武器になるわけです。

ユーザビリティテストの実施—医療現場での製品評価

ユーザビリティテストは、医療者や患者さんに実際に試してもらい、操作性や表示のわかりやすさ、装着感などを評価するプロセスです。
たとえ測定精度が高くても、装着が面倒だったり操作が複雑だったりすると、現場で使われなくなる可能性が高いんですよね。

私が関わったウェアラブル医療機器でも、「表示画面にアイコンを追加したら混乱するかな?」とか「長時間装着しても痛くないか?」といった細かい部分を繰り返しテストしました。
ここでの気づきが最終的なデザインに大きな影響を与えることも多いので、エンジニアが積極的にテスト現場に足を運ぶことをおすすめします。
リアルなフィードバックは想像以上の学びを与えてくれますよ。

チーム構築と多職種連携—エンジニアの役割

医療機器開発に必要な多様な専門性—誰と協力すべきか

医療機器開発はエンジニアだけで完結しません。
医師、看護師、臨床工学技士、薬事担当者、デザイナー、マーケター、そして場合によっては投資家や行政の方とも連携が必要になるかもしれません。
「多職種連携って大変そう…」と思うかもしれませんが、それぞれが違う視点を持っているからこそ、革新的なアイデアが生まれるんです。

  • 医師・看護師:実際の医療現場における使用感やリスクを提案
  • 薬事担当者:規制をクリアするための戦略設計
  • デザイナー:ユーザビリティやUI/UXの改善
  • マーケター:市場ニーズや商業的インパクトの分析

このように、お互いの専門性を尊重し合うことで、製品の完成度が一気に高まります。

エンジニアと医療者の「共通言語」を作る—効果的なコミュニケーション術

「医療現場の方々って、どうやって話を合わせればいいんだろう?」と最初は戸惑うかもしれません。
私も最初は専門用語の違いに苦労しました。
ただ、お互い「患者さんのためにベストを尽くしたい」という想いは共通しているので、その点を軸に会話するのがおすすめです。

具体的には、難しい技術用語を使うときはなるべく簡単な言い換えも添える。
医療者の言葉がわからないときは、遠慮せずに「それはどんな意味ですか?」と素直に聞く。
お互いの専門性を尊敬し合う姿勢さえ忘れなければ、コミュニケーションのハードルはグッと下がります。

医療機器スタートアップでのチーム構築—私の経験から

私は以前、メディテックイノベーションというスタートアップでCTOを務めていました。
そのとき実感したのは、「多職種が集まるからこそ、アイデアが化学反応を起こす」ということ。
エンジニアの私が思いつかないユニークな発想が、医師やデザイナーからポンと飛び出すんです。

一方で、規制面や安全面など考慮すべきことが多い医療機器開発では、意見が割れやすい場面もあります。
そんなときこそ「ユーザー(患者、医療スタッフ)の利益はどこにある?」と原点に立ち返ると、合意形成がスムーズになりました。
自分たちが作っているものが「誰のどんな問題を解決するのか」を常に意識できれば、チームの方向性は自然とまとまっていきます。

日本の医療機器開発エコシステムの現状と未来

日本の医療機器産業の強みと課題—グローバル視点での分析

日本は精密機械やロボティクスの技術が非常に高いことで知られています。
カテーテル手術や内視鏡検査などの分野で世界をリードしてきた歴史もあるし、「メイド・イン・ジャパン」の品質は海外から高く評価されています。
しかし、海外(特にアメリカ)のように、スタートアップが生まれやすい環境が十分とは言い難いという課題もあります。
資金調達や法規制の柔軟性など、エコシステム全体のサポートがまだ手薄な印象ですね。

ただここ数年はベンチャーキャピタルやアクセラレーターが医療分野にも増え、大学や病院と連携して生まれるスタートアップが徐々に増加しています。
「技術ドリブン」で優位を築いてきた日本が、「ニーズドリブン」の視点を取り入れ始めた今こそ、大きく飛躍できるチャンスかもしれません。

デジタルヘルスケア革命—AIとウェアラブル技術がもたらす可能性

AIとウェアラブル機器が融合したデジタルヘルスケアの分野は、今後も爆発的に成長する見込みがあります。
スマートウォッチやスマホアプリが心電図や血圧を測定し、リアルタイムで医療者にデータを送信する世界は、すでに一部実現されていますよね。

「これが当たり前になれば、病気の兆候を事前に察知して予防することも夢ではない」

私が関わったプロジェクトでも、AIでデータを解析し、患者の急変リスクを予測するシステムを開発中です。
日本国内だけでなく海外からも注目を集めていて、「日本発のヘルスケアAIが世界を変える」未来はそう遠くないと感じています。

高齢化社会における医療機器開発の機会—日本発イノベーションの可能性

高齢化が進む日本では、在宅医療やリハビリ、介護支援といった分野のニーズが急速に拡大しています。
「高齢者の生活を少しでも快適にする」視点で考えると、まだまだテクノロジーで解決できそうな課題が山ほどあるんです。
この分野でのイノベーションは、日本が世界に先行して課題に取り組むチャンスでもあります。

在宅透析や遠隔診療、リモートモニタリングなど、高齢化社会と相性のいい技術が数多く存在します。
もしあなたが、「この課題、なんかうまく解決できそう」とひらめいたなら、それはもしかすると世界中で求められるソリューションになるかもしれません。
私も今後は、こうした高齢者向けのウェアラブルセンサーやAI診断ソリューションに積極的に関わりたいと考えています。

まとめ

ここまで、医療機器開発における7つの主要ポイントをざっくりとお話ししてきました。
最後にもう一度キーワードを振り返ってみましょう。

  • ニーズドリブンとテクノロジードリブン:どちらを軸にするかを明確にしよう
  • ユーザー中心設計(UCD):患者と医療者、両方の声を聞く
  • クラス分類とリスク評価:自分が作りたい機器のリスクレベルを把握する
  • 規制と承認プロセス:薬事承認とQMSへの対応が成功のカギ
  • 臨床ニーズの発見と評価:スタンフォード流の現場観察とインタビューが有効
  • プロトタイピングと検証:小さく素早く失敗し、学びを活かす
  • 多職種連携:エンジニア、医療者、薬事担当者などのチームワークが不可欠

初めての医療機器開発は、正直、覚えることや守るべきルールが多く感じられるかもしれません。
でも、いざ取り組んでみると、人の命や健康に直接関わる領域だからこそのやりがいや、技術が本当に活きる充実感があります。

もしあなたが「医療機器開発の世界に飛び込んでみたい」と思ったら、まずはニーズを探るところから始めてみてください。
それこそ家族や身近な友人に「こんな医療機器あったらいいのにね」と意見を聞くだけでも、まったく新しい発見があるかもしれません。
そしていつかあなたの手がけたデバイスが、誰かの人生を大きく変える力になるかもしれない—それが医療機器開発の最高にエキサイティングなところだと、私は思います。

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最終更新日 2025年5月8日 by citations